岩井トラディション シェリーカスクフィニッシュ(IWAI TRADITION SHERRY CASK FINISH)
ジャパニーズウイスキーの歴史を語る上で、鳥井信治郎と竹鶴政孝以外にも忘れてはいけない存在がいることをご存知でしょうか。
ジャパニーズウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝、彼をスコットランドへ送り出した張本人が摂津酒造の岩井喜一郎と代表である二代目阿部喜兵衛の二人、そもそも竹鶴政孝が摂津酒造へやってきたのが岩井喜一郎を訪ねてのことでした。
岩井は当時、日本の蒸留酒の業界では第一人者とされていました。
その頃蒸留酒造りに主流だったのはイルゲス式連続蒸留機、しかしイルゲス式には、飲用のアルコールとしてはフーゼル油などの不純物が多く含まれすぎてしまうという問題点がありました。そこで岩井は蒸留機に精留塔を取り付け、フーゼル油を取り除く改良を施して蒸留酒の品質に大きく貢献していました。
この改良版の連続式蒸留機は岩井式連続蒸留機と呼ばれていました。
1920年に竹鶴がスコットランドから帰ってくると、摂津酒造では「熟成が必要でかつ、売れるかも分からない本格ウイスキー造りは財政面の問題からも手を出すべきではない」と判断してしまい、摂津酒造は本格的なウイスキー造りから事実上完全に撤退してしまいます。
そして時が経ち、マルスウイスキーの歴史が始まります。
摂津酒造を退職していた岩井は、1945年に鹿児島県を拠点とする本坊酒造から顧問として招聘され、本坊酒造による国産ウイスキーの製造に着手、更には1960年になると山梨に洋酒やワインを専門とする山梨工場を設立、この工場はかつて竹鶴政孝がスコットランドでウイスキー造りを学び、その全てを記した通称『竹鶴ノート』を元に岩井が設計したものです。
稼働するポットスチルも岩井が設計した『岩井ポットスチル』、2014年からはポットスチルの老朽化のため、マルス駒ヶ岳蒸留所で展示されていますが、現在実際に稼働している新しいポットスチルも岩井ポットスチルの形状をそのままに少しだけ改良したものを使い続けています。ウイスキー不況時代の波に揉まれ、本坊酒造は蒸留を中止していた時期もありますが、それでも熟成はやめることなく辛抱強く耐え抜き、2011年からは蒸留を再開しています。
マルスウイスキーの生みの親である岩井喜一郎への尊敬と感謝の念を込めた特別なブレンデッドウイスキーである「岩井トラディション」は蒸留再開の前年である2010年にリリースされたもの、マルスウイスキーの歴史が始まって50年の節目を迎える年です。
「岩井トラディション シェリーカスクフィニッシュ」は、ペドロヒメネスに特化したボデガで知られる「ヒメネス・スピノラ」のシェリー樽を用いて「岩井トラディション」に追熟を施したもので、2021年に限定発売されました。
ウイスキーのシェリー樽でいうと一般的にオロロソなどの辛口シェリーが多いですが、こちらの商品は極甘口シェリーであるペドロヒメネス樽、ペドロヒメネス由来のしっかりした上品な甘さが心地よく、メープルシロップやブラウンシュガーを感じていただけます。
陰ながらジャパニーズウイスキーの誕生を支えた岩井喜一郎、そしてマルスウイスキーを擁する本坊酒造は、サントリーやニッカウイスキーに続いて、三番目に国内で2箇所のウイスキー蒸留所を所持している酒造会社でもあり、1980年代の地ウイスキーブームの火付け役とも言われています。
ぜひ一度お試しください。